看護診断って何?
- とある男性動物看護師
- 2016年10月14日
- 読了時間: 10分
前回勉強した『アセスメント』についてですが、動物看護師も最近になってやっと重要視される考え方になってきました。 しかし、参考書もほとんど存在せずasの連載なんかで見た時に衝撃を受けたのを覚えています。 動物看護師も患者家族に寄り添っていくには、根拠のある実践をしていかなければならないと私は考えています。 なぜこう考えたか、なぜこのような行動をしたのか、など獣医療を展開する上で必要不可欠だからです。 そこで、人医療の看護過程の考え方を当院では導入するためにただいま、悪戦苦闘、勉強中です....... 今日はその中でも私たちに馴染みの少ない新しい分野『看護診断』について ご紹介していきます。 ではそっそく参りましょう!

看護診断(かんごしんだん)とは、 看護過程(情報収集、アセスメント、問題点の抽出、看護計画)の段階の1つで、アセスメントをもとに、対象者の主訴や言動、バイタルサインや検査データが正しいかを確認した後にデータを分析し、疾患の原因などを推論する。 看護師は看護診断に基づいて看護計画を立て、実践・評価を行う。 看護診断と呼ばれるものは複数あるが、最も汎用性が高いものはNANDAの看護診断である。 ND(nursing diagnosis)と略される場合もある。 (看護roo!より引用) 看護診断は医学的診断とは異なり、生活上の問題に焦点が当てられます。 患者動物、患者家族、カルテから情報収集して得られたたくさんの情報を、みなさんはどのように整理していますか? 頭の中で整理するのは至難の業。 そこで登場するのが看護概念モデルをもとにしたデータベースです。 ヘンダーソンの「看護ケアの14の構成要素」、ゴードンの「11の健康機能パターン」、ロイの「4つの適応様式」といった看護理論家や看護概念の名前耳にしたことはあるでしょうか? これらの概念モデルを使って情報を整理することで、効率のいいアセスメントが可能になります。
ここではゴードンの「11の健康機能パターン」をデータベースに用いて説明していきます。 パターンは「領域」とも言われ、患者動物の状態を理解する視点になります。 ゴードンは患者を11個の領域に分けてとらえ、アセスメントを行うこと唱えています。領域ごとに情報を分類していくことで、患者がどこに問題を抱えているのかが客観的にわかり、看護診断・看護計画へ進めていくことができるのです。
「患者の全体像を把握しなさい」 動物看護師にとっても非常に重要だと思います。 疾患の視点だけではなく、こういったデータベースを用いて整理することで、患者の生活状況や価値観の視点を取り入れた「個別性のある看護計画」になっていきます。 ゴードンの機能的健康パターンと記録の実際 1.健康知覚-健康管理 健康状態・受診行動・疾患や治療への理解・運動習慣・服薬状況・身長・体重・BMI・飲酒・喫煙の有無・既往歴 S)早く治して退院したい S)タバコをやめる気はないね O)20歳から現在まで1日20本の喫煙歴 禁煙経験なし
2.栄養-代謝 入院前/後の食事内容・摂取量・嚥下力・身長・体重・BMI・皮膚の状態・褥創の有無・義歯の有無・血液データ(Alb,TP,RBC,Ht,Hb,Na.K,TG,TC,HbA1C,BS) S)揚げ物が好きでどうしても食べてしまうんです O)自炊はせず、コンビニやスーパーのお惣菜を買って食べていた O)糖尿病食1600kcalを毎食全量摂取
3.排泄 排泄回数・量・性状・腎機能データ・排泄行動・介助の有無・下剤使用の有無・安静度・膀胱留置カテーテルの有無・腸蠕動音 S)最近尿が出にくくなったかな O)BUN14mg/dl,Cr1.3mg/dl.尿量1100ml/日 O)入院5日目だがまだ排便みられない
4.活動-運動 ADLの状況・運動機能・呼吸機能・職業・運動歴・安静度・移動/移乗方法・住居環境・バイタルサイン・血液データ(RBC,Hb,Ht,CRP) S)早く歩いてトイレに行きたい O)安静度:ベッド上、ギャッヂアップ30度まで O)入院前は毎朝のウォーキングが習慣だった
5.睡眠-休息 睡眠時間・熟眠感・睡眠導入剤使用の有無・日中/休日の過ごし方 S)なかなか寝付けなくて睡眠薬を飲んでいます O)睡眠時間6時間。夜間2回覚醒する
6.認知-知覚 意識レベル・聴力・視力・認知機能・疼痛状況・不安の有無・表情 O)右耳に補聴器を装着している S)膝は痛みますけど薬を飲むほどではありませんね 7.自己知覚-自己概念 性格・社会役割・家族内役割・今後の疾患の見通し S)几帳面な性格だとよく言われます S)この際しっかり治療して完治したいです
8.役割-関係 職業・社会役割・家族の面会状況・経済状況・キーパーソン O)高校生と大学生の子供を持つ母である O)会社員で営業部長の職にある
9.性-生殖 年齢・家族構成・更年期症状の有無 O)70歳女性。夫と2人暮らし O)近所に娘夫婦が住んでいる
10.コーピング-ストレス耐性 入院環境・仕事や生活でのストレス状況・ストレス発散方法・家族のサポート状況・生活の支えとなるもの S)仕事が忙しくて帰宅はいつも深夜でした
11.価値-信念 信仰・意思決定を決める価値観/信念・目標 S)病気になって今までの生活がいけなかったんだなと思いました。改めないといけませんね O)信仰は特になし 人医療の看護師は、上記のように収集した情報を整理して患者が今どのような状況にあるのかを判断していきます。 情報を書く前に 情報を書く前にみなさんは情報を「SOAP」形式で記載することが多いと思います。情報といえばまず「S」と「O」。これがなければアセスメントやプランニングは成り 立ちません。 「S」は主観的データ(Subjective data) 患者さん(家族のこともあり)が実際に発した言葉を記載します。 「O」は客観的データ(Objective data) 観察したり測定したりして得られた情報のことをいいます。 「A」はみなさんの分析・解釈・評価が書かれたアセスメント 「P」はアセスメントによって挙げられた問題を解決するための看護計画のことです。 (上記は看護分野での分類で、獣医師がカルテに記載するものとは少し異なります) とにかく片っ端から情報を取ろうとしても、時間も限られてるし効率が悪くなります。 それを払拭するために、アセスメントを系統立てて行うことが可能になるアセスメントシートを用いるのが良いと思います 看護診断てどんなものがあるの?細分化してみよう ゴードンの機能的健康パターンの理論をもとに患者の状態を把握し、 患者が抱える(または抱えるであろう)問題を抽出していきますが、 例えば「身体的な苦痛」1つを取り上げても、どのような状況下で苦痛を感じているのか、状況別にみる苦痛は多岐に渡ります。 ①疾患に伴う苦痛(腹痛・頭痛・患部の疼痛など) ②投薬など治療に伴う苦痛(嘔吐・倦怠感など) ③合併症に伴う苦痛(感染症など) ④体動制限に伴う苦痛(筋力低下によるだるさ・褥瘡など) ⑤精神不安に伴う苦痛(睡眠障害による頭痛・倦怠感など) このように、ひとえに身体的苦痛と言っても原因や症状はさまざまです。 また、身体的苦痛だけでなく、精神的苦痛・社会的苦痛・霊的苦痛など、QOLの維持・向上に際して弊害となる苦痛の種類はさまざまです。 これら各苦痛に対して、患者のQOLの低下を招いている原因は何かを考え導き出すことが非常に重要であり、上記の理論の大枠だけを基に問題を抽出するのは不十分です。 (これは、患者家族にも当てはめれそうですね....) つまり、看護問題を提起・抽出するためには、各カテゴリーを細分化し、因子(原因)を特定することで、看護問題が明確になり、はじめて解決すべき問題がみえてくるのです。 看護問題を明確化してみよう アセスメントによって患者の状態を把握した後、各理論をもとに患者を分析し無数の問題を提起・抽出した後に明確化することで、解決への取り組みをスムーズに行うことができます。 明確化とは「因子(原因)を特定する」ことであり、 たとえば「転倒・転落リスク」(看護診断名)を取り上げると、 転倒・転落リスクは ①既往疾患 ②身体的機能 ③精神的機能 ④性格 ⑤活動状況 ⑥薬剤の服用 ⑦排泄 ⑧当日の状態 ⑨環境の変化 ⑩観察・指導不足 ⑪不適切な環境など 転倒・転落を招く原因は多岐に渡ります。 転倒・転落の因子(原因) ①既往疾患 過去にめまい・失神・麻痺発作など疾患に伴う転倒があったか ②身体的機能 運動障害、知覚障害、言語障害、視力障害、聴覚障害、筋力低下、骨・関節の異常(骨粗鬆症・変形・拘縮など) ③精神的機能 理解力低下、判断力低下、不眠不穏、徘徊、多動など ④性格 遠慮深い、我慢強い、自立心が強い ⑤活動状況 歩行器・車椅子・杖の使用、点滴・各種カテーテルやドレーンによる行動制限、移動に要介助 ⑥薬剤の服用 睡眠剤、鎮痛剤、筋弛緩剤、降圧・利尿剤、向精神薬の服用 ⑦排泄 頻尿、下痢、夜間の排尿、ポータブルトイレ使用、要介助 ⑧当日の状態 発熱、脱水、貧血、検査・手術後、リハビリ訓練中 ⑨環境の変化 入院・転入後2日以内、ベッド・浴室・トイレなど設備の操作不慣れ ⑩観察・指導不足 監視体制の不備、与薬後の観察不十分、履物・寝衣の選択や歩行の指導不十分など ⑪不適切な環境 ベッドの高さが不適切、電動ベッドの操作不慣れ・誤操作、水濡れにより床が滑りやすい、物品の散乱、障害物など
よって、単に「転倒・転落リスク」を看護問題とするのではなく、「筋力低下による転倒・転落リスク」というように原因を特定し、問題を明確にしなければ、真に解決へと導くことができません。 そのためには綿密なアセスメントが必要不可欠です。 このように、現在患者が抱えている問題(または抱えるであろう問題)は何が原因となっているのかを的確にアセスメントし、それぞれの問題に対する“根拠”をもとに明確化することが、問題解決のために非常に重要となってくるため、必ず根拠を提示し、必要であれば再度アセスメントを行うようにしましょう。 看護問題に優先順位をつけてみよう!! 最後に、ここまでで抽出した看護問題に対して、どれが危険性が高いのか優先順位をつけなければいけません。 というのも、抽出できる看護問題は多岐に渡り、全てを平行して実施することができないからです。 また、全ての看護問題を同程度の割合で実施すると、危険性の高い問題へ取り組む時間や意識が減少し、結果的にQOLの低下を招くだけではなく、場合によっては疾患を増悪させてしまいます。それゆえ、看護問題に対して優先順位をつけ、率先して行うべき行動・援助を決定する必要があるのです。 危険度(高) ガス交換障害、高体温、ライン類の自己抜去、窒息リスク、自己傷害・自殺リスクなど、直接生命に関わる問題
危険度(中) 転倒・転落リスク、栄養バランス異常、誤嚥リスクなど、疾患の重篤化・合併症の発症による治療遅延が及ぶ危険性のある問題、または苦痛を伴う問題
危険度(低) 摂食・入浴・清潔・更衣・排泄における「セルフケア」不足、ALD障害など、日常生活において不快となる問題 このように、危険度をもとに優先順位を決定しています。 しかしながら、同程度の問題に対しても書面上、優先順位をつけなければいけない場合もあるでしょう。 その場合には、危険度に加え「可能性」を加えることで、より優先順位がつけやすくなります。 可能性が高ければ高いほど優先順位が高く、可能性が低ければ低いほど優先順位が低いと決定することができます。 また、すでに問題となっているのか、起こりうる問題なのかという「既存の有無」を基にしてもよいでしょう。 すでに問題となっていれば優先度が高く、問題となっていなければ優先度が低いと決定することができます。 ただし、実際は必ずしも細かく優先順位を決める必要はありません。 実際のケアは並行して行われることが多く、日に日に患者の問題は変化していくからです。 しかしながら、適切に優先順位をつけられるということは、患者を綿密にアセスメントができるということであり、各問題に対するリスクを多角的に把握できるということでもあります。 この域に達するには経験を積むしかないため、危険度を基に分類できるようになることを第一とし、細かな順位づけは今後の課題としておくと良いでしょう。
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